おそらくクルマに興味のない人にでも車名と外観が一致する数少ない一台ではないでしょうか。
ある一定の年齢層より上の世代の日本人には4WD=ジープという人もまだまだ多いと聞きます。
ジープはその歴史もまた、でこぼこ道のような数奇な歴史であり、1940年ナチスドイツがポーランドに侵攻、所謂「電撃戦」を敢行し、ドイツが小型で高性能な軍用車を開発していることをアメリカが察知すると、アメリカ政府は国内の自動車メーカーに小型で頑丈な4輪駆動の自動車の開発を打診します。
アメリカビッグ3は納期の短さから断念し、小型車を得意とするウィリス社とバンタム社が入札、ウィリス社は納期に間に合わず入札を辞退、当時倒産の危機に瀕していたバンタム社が起死回生を図り、11日後に設計図を完成、49日後には試作車を納入という無謀とも言える軍からの要望に応えるべく、元GMの技術者「カール・ブロブスト」を招聘、僅か5日で設計を終えたと言います。
試作車は連日工場に泊まり込みで製作、締め切り二日前に完成します。
完成した試作車は「ブリッツバギー」と呼ばれブロブスト技師の運転で軍に引き渡されますがその際、ブロブスト技師はブリッツバギーの面白さに気づき、わざと道路を外れてオフロード走行を楽しんだと言います。
軍用車として開発されたジープですが後に世界中のアウトドア愛好家を魅了するオフロードカーになる片鱗はこの時点であったようです。
これで、軍から大量発注が見込めるとバンタム社が安堵したのもつかの間、軍はビッグ3やウィリスにも図面を渡し、同じ「ブリッツバギー」の生産を命じます。当然バンタム社は抗議しますが、図面は軍の帰属となり聞き入れられず、ジープの量産は生産能力の高い他社に託され、バンタム社にはジープでけん引するためのトレーラーの生産のみで、終戦後間もなくバンタム社は消滅してしまいます。
一方、日本では朝鮮戦争勃発時にアメリカからジープのノック生産の要請があり、三菱重工がノックダウン生産の指名を受け、ジープの国産化に着手します。
そのため初期の三菱ジープは「WILLYS」のロゴと三菱の「スリーダイヤ」両方のマークを掲げ、国産車ながら左ハンドル仕様が存在するという特殊なクルマでした。
さらにウィリスの後身であるフレイザーカイザー社(後にアメリカンモータース、最終的にはクライスラー)が日本市場でも展開していたため、アメリカ本国生産のジープと三菱のライセンス生産のジープ両方が販売されるという非常に稀な展開をしていたブランドでもあります。
また、ジープが日本の四輪駆動車に与えた影響も計り知れない物があり、トヨタランドクルーザーとスズキジムニーの車両型式にある「J」は「JEEP」の「J」を意味するともいわれ、実はスズキジムニーのトレッドとホイールベースの比はジープと同じ比率だそうで、日本市場を苦手とすると言われているアメリカ車でも、ジープに関してはもっとも日本市場で親しまれている外国車に一つかもしれません。
ジープが日本で成功した要因として大きいのはなんと言っても右ハンドル仕様が存在することでしょう。
1990年代クライスラーはホンダと提携し、貿易摩擦解消のためジープチェロキーをホンダのディーラーで販売していた時期があるのですが、思わぬ副産物でチェロキーは郵便車として納入されていた事から右側通行のアメリカでも路肩から郵便物の集配をしやすくするという目的で右ハンドル仕様のチェロキーが存在しました。
郵便車仕様を日本市場向けに転用する事で、戦後初の右ハンドル仕様のアメリカ車となりに「ジープ」の知名度の高さと相まって、他のアメリカ車が日本市場で不振にあえぐ中、チェロキーはクリーンヒットとなり、ついにはラングラーなどジープブランド車全て右ハンドルをラインナップしたそうです。
セールスマンのは話によるとジープの売り上げは年々伸びていて、フォードが日本市場を撤退し、GMもクライスラーもラインナップが縮小する中、ジープだけは好調な売り上げを見せるという日本ではアメリカ車は売れないという常識を覆す存在となっています。
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